私の「親家片」体験

【相続体験談】~遺言書をつくり万全の備えをしたのに……~主婦弁・澤田有紀の「親家片法律コーナー」~

遺言書の内容に皆が納得しつつも、前妻の子どもとの間で起きた相続問題。そこには「不動産評価」が大きく関わっていたのです。

前妻の子に分割した財産が多すぎたことが判明。返還を打診したら“断固拒否”。
矢野美代子さん(仮名)のケース

きちんと専門家に相談して公正証書遺言を作成していても、もめてしまうケースがあります。矢野美代子さんの夫、慎太郎さんの場合がまさにそうでした。慎太郎さんは、市街地に賃貸マンションをいくつも所有している資産家でした。

慎太郎さんの最初の奥さんは由美さんという娘を生んだあと、すぐに亡くなってしまいました。その後、慎太郎さんは美代子さんと再婚。美代子さんとの間に美希さんという娘がいます。

美代子さんは由美さんをわが子同様にかわいがり、はた目にも仲のよい家族と思われていました。慎太郎さんは80歳を過ぎて、将来相続が起こったときに、子供たちが分け方に困らないよう遺言書をつくることにしました。

将来のことをふまえ、皆が納得する内容になったはずが……

由美さんはすでに結婚して、子供が2人います。慎太郎さんを手伝って賃貸マンションの管理にもかかわってきました。一方、美希さんは、結婚せずに自由奔放な生活を送っていました。

慎太郎さんは、由美さんに収益性のあるマンションを相続させて、将来の収入を確保してやりたい、妻の美代子さんと美希さんには住む家と現金を相続させればよいと考え、日頃からその考えを伝えて、みんな納得していました。そこで税理士を含む専門家にも相談し、相続税対策もきちんと考えたうえで公正証書遺言をつくり、できる限りの備えをすることに。

遺言の内容は、「一番収益のある賃貸マンション1棟を由美に、美代子と美希にはそれぞれ自宅と預貯金を相続させる」というものでした。美代子さんは由美さんに遠慮があったので、自分と娘の分は最低限の遺留分相当の額でいいと思っていました。

 

それからしばらくして慎太郎さんは亡くなりました。遺言書できちんと対策をしているので、もめる要素は何もないはずと誰もが思っていました。ところが、とんでもないことが発覚します。慎太郎さんが所有していた賃貸マンションは、立地もよく常に満室の人気物件であることから、時価査定をすると相続税の評価額の2倍近くの価値があることがわかったのです。

 

不動産評価が違っていた? あげすぎた遺産をどうしようか…

「きちんと計算してもらったはずなのに、どうしてこんなに違うのかしら」
と首をひねる美代子さん。じつは、遺言書では賃貸マンションの評価が、相続税の算定方法である「路線価」や「固定資産税評価額」をベースに計算されていたのです。これは相続税の申告をするためには正しい方法。不動産評価が高くなると相続税もたくさん払わなければならなくなるので、時価よりも3割ほど低い評価で計算されるのが普通です。

 

しかし、各法定相続人の遺留分(法定相続人に最低限保証されている取り分)を侵害していないかを計算するときは、「時価」で計算するのです。マンションの評価が2倍に査定されたので、相続財産全体の金額も上がり、美代子さんの遺留分の額もふえました。今のままでは遺留分が侵害されていることがわかったのです。法律では、相続人の遺留分を侵害している場合には、侵害されている分については請求することができ、ほかの相続人がもらいすぎた遺産の中から戻してもらうことなります。

そこで、美代子さんが由美さんに事情を説明したところ、
「えーっ、遺言書に書いてあるのに、どうして余計なお金を払わなければいけないの。そもそも、そっちがちゃんと計算していないのが悪いんでしょう。私がマンションをもらうのは、昔からお父さんと約束していたことだから、もちろん全部もらいますよ。今さら返せだなんて、お父さんの遺言にどうして逆らうの?」

と言われ、まったく応じる気配がありません。そればかりか、美代子さんが欲張っていると言わんばかりの態度をとられ、美代子さんの考えも変わりました。
「前妻の子供を尊重した私たちの誠意は、まったくどうでもいいのね」
今は正当な遺留分が認められるまで、調停、審判と徹底抗戦する構えです。

 

「主婦弁」澤田先生からのアドバイス

 

これは、相続税の不動産評価と遺留分での不動産評価に開きがあることが原因ですね。遺言書や遺産分割協議書をつくるとき、相続税ベースだけで計算してしまうことがあるようです。特に税理士さんは税務申告や節税対策がメインですから(それが悪いわけではありません)、相続税の申告をお願いする場合はいいのですが、遺言書などで遺留分の計算をする場合は、時価での評価もしてもらうようにお願いしたほうがいいでしょう。

弁護士は遺留分の計算は専門分野ですし、紛争解決の代理人として交渉もします。税理士さんと提携しているところも多いので、不動産評価でもめそうなかたは相談されてはいかがでしょうか。

■澤田先生の著書『どうする? 親の相続』には、多くの体験談や相続に関するQ&Aを掲載。相続に関するベストな方法が見つかるはずです!

澤田先生本

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澤田先生の法律事務所 弁護士法人みお綜合法律事務所 http://www.miolaw.jp/

sawada澤田有紀 
弁護士。弁護士法人みお綜合法律事務所代表。奈良県生まれ。1985年大阪大学文学部英文科卒業後、商社勤務、エレクトーン講師を経て専業主婦に。阪神淡路大震災をきっかけに、「何か人の役に立つことがしたい」と一念発起。弁護士を目指す。1回で司法試験に合格し、2000年に弁護士の道へ。専業主婦から弁護士になった「主婦弁」として各メディで活躍中。主な著書に『人生を変える!3分割勉強法』(祥伝社)、『カード&住宅ローン危機』、『相続でもめないための遺言書』『どうする?親の相続』(ともに主婦の友社)など。

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