私の「親家片」体験

【相続体験談】20年前に作成した遺言書で大もめに ~主婦弁・澤田有紀の「親家片法律コーナー」~

相続問題とは切り離せない「遺言書」ですが、この存在がきっかけで親族間のもめ事に発展することは少なくありません。さらに、かなり以前に作成した遺言書となると、記載されている内容にも変化が……。今回は遺言書を更新していなかったことで起きた相続トラブルです。

遺言書の作成から20年。内容も相続人も様変わりし、総勢28人が大もめ 坂本祐介さん(仮名)のケース

 

坂本さんの父、源之助さんは農業で生計を立てていましたが、バブルのとき、広い農地を宅地に転換して処分し、多額の資産を手に入れました。

源之助さんには子供が7人いたのですが、末っ子の祐介さんが周囲の反対を押し切って駆け落ちしてしまい、それっきり行方がわからなくなっていました。それから何十年もたった頃には、源之助さんも兄弟たちも、本人が幸せに暮らしているならそれでいいと、祐介さんのことはすっかりあきらめていました。

やがて源之助さんが80歳になったとき、子供たちから「将来、兄弟でもめるのはいやだから、そろそろ遺言書をつくってほしい」と言われ、源之助さんは言われるがままに公正証書遺言をつくりました。

「これで子供たちはもめることもない。財産の承継も無事すんだ」と安心した源之助さんでしたが、じつはひとつ問題がありました。

賃貸物件や土地を複数持っていたので、遺言書をつくる際には、子供たちそれぞれに相続させる不動産を指定したのですが、そのほかの財産については「法定相続分で仲良く分けるように」とだけ書いて、指定していなかったのです。

 

それから20年がたち、源之助さんは100歳で亡くなりました。遺言書を作成してからあまりにも長い時間がたっていたので、不動産の多くが処分されていたり、子供や孫に生前贈与をしたりして、遺言書の内容と実態がまったくかけ離れたものになっていました。

遺言書を開けてみたら、あるはずの不動産がなく、分割が指定されていない不動産が残っていたりと、誰も全体を正確に把握できません。また子供たちに生前贈与をした財産は、特別受益として持ち戻し計算をしなければならないというので大混乱。今では何倍にもふえた相続人が、もめにもめる事態になりました。

 

そのもめる原因になった一番の主役が、若い頃に駆け落ちして親兄弟と絶縁していた、末っ子の祐介さんでした。

親の愛情と庇護を受けられなかった30年をこの相続で取り返したい

祐介さんは法定相続人ですが、何十年も家族と絶縁していたので、てっきり自分は相続人からは廃除されているものとあきらめていました。しかし源之助さんが亡くなって、遺言書に自分の相続分は指定されていないものの、「ほかの財産は法定相続分で仲良く分けるように」と書かれていたことを知りました。つまり、遺留分の請求や遺産分割に相続人として参加できるということです。
「親父は俺を見捨てていなかった!」と感謝するとともに、「これは、今まで自分だけもらい損ねた親父のお金を、きっちり取り返す機会だ」と思いました。そこで絶縁していた兄弟たちに自分の存在を認めさせるため、自分の権利を徹底的に主張。1円単位まできっちりもらうと心に決めました。

算定にあたっては、お父さんがこれまでに、ほかの兄弟に援助したり贈与した財産をもれなく探すことからスタート。不動産については、何十年も前に行った贈与まですべてさかのぼり、当時の価格を現在の価値に計算し直すという大変な作業が必要でした。遺言書には載っていない共有の賃貸物件は、収支についても徹底的に調べ上げ、預金も誰かに贈与していないか、伝票まで取り寄せるという念の入れようです。

そんな祐介さんの執念が実って、ほぼ祐介さんの希望どおりの審判が出たのですが、決着するまでには7年もかかってしまい、その頃には、もともと高齢だった祐介さんの兄弟は、1人を残してすでに全員が他界。相続する権利は子供や孫たちに引き継がれていて、祐介さんと争っていた関係者は、最終的に数えたらなんと総勢28名にもなっていました。

「主婦弁」澤田先生からのアドバイス

遺言書は早くつくりすぎるということはありませんが、時間がたったらメンテナンスをすることも必要です。

財産の内容、相続人の状況、遺言者の考えも変わっている可能性がありますし、変わっていて当然です。遺言書は何回でもつくり直せますので、私は数年ごとに書き換えることをおすすめしています。

また財産の一部だけを記載したり、分割指定したりして「あとは法定相続分で」という書き方はもめるもと。すべて記載できない場合は「このほか一切の財産は誰々に相続させる」というように指定しておくのがいいでしょう。

 

■澤田先生の著書『どうする? 親の相続』には、多くの体験談や相続に関するQ&Aを掲載。相続に関するベストな方法が見つかるはずです!

澤田先生本

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澤田先生の法律事務所 弁護士法人みお綜合法律事務所 http://www.miolaw.jp/

sawada澤田有紀 
弁護士。弁護士法人みお綜合法律事務所代表。奈良県生まれ。1985年大阪大学文学部英文科卒業後、商社勤務、エレクトーン講師を経て専業主婦に。阪神淡路大震災をきっかけに、「何か人の役に立つことがしたい」と一念発起。弁護士を目指す。1回で司法試験に合格し、2000年に弁護士の道へ。専業主婦から弁護士になった「主婦弁」として各メディで活躍中。主な著書に『人生を変える!3分割勉強法』(祥伝社)、『カード&住宅ローン危機』、『相続でもめないための遺言書』『どうする?親の相続』(ともに主婦の友社)など。

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