私の「親家片」体験

【相続体験談】家督相続で相続放棄をさせられた! ~主婦弁・澤田有紀の「親家片法律コーナー」~

遺言や相続など、親家片をするうえで避けては通れない法律問題。いざというときに「何も知らなかった」と後悔することがないよう、ある程度の知識を備えておくと安心です。

ここでは、遺言書作成のセミナーなどを数多く行い、ラジオや講演会でも活躍されている「主婦弁」澤田有紀先生が実際にあった相続トラブルについてアドバイスを送ります。今回のテーマは「家督相続」です。

相続手続きの書類に何の説明もなく、実印を押すように言われた 山田幸恵さん(仮名)

「私の田舎の慣習では、今でも長男が財産すべてを相続します」
そう話すのは山田幸恵さん、68歳。長男、女3人、弟が末っ子の5人兄弟です。お母さんはすでに他界。その後、お父さんが亡くなると、地方の慣習に従って長男が全財産を受け継ぎました。

 

「うちは長男が年齢も一番上で、家長のような存在。相続についての話し合いなど、もちろん一切ありません。兄夫婦から一方的に『四十九日にハンコを押してもらいたい書類があるから、実印持ってきて』と言われただけです」

当日も兄夫婦から何も説明はなく、手続きには10分とかかりませんでした。
「書類はちらっと見ましたが、私たちが見てもわかりませんから。財産がいくらあるかも教えてもらっていません。兄がみんなに順に実印を出すように言って、目の前で流れ作業のように書類にポンポンと押して、終わりです」

 

お父さんの遺言書もありませんでした。
「父は町の世話役で資産家でした。余命1カ月と言われても、最期まで財産のことは何も教えてくれなかった。だから父が亡くなっても、私たちは誰も泣きませんでしたよ」

幸恵さんの住む地域では、いまだに長男の権力は絶大、女性は弱者という暗黙の了解があります。女性は嫁に行った立場なので、実家のことに口出しをする者は誰もいません。

相続に限らず、長男に対して何か意見を言ったこともないとか。ほかの兄弟が何か口をはさめば、つきあいがそこで終わってしまうからです。

 

「田畑、大きな敷地と家屋、預金のすべてを兄が相続しました。預金の額など、少し聞いてはいても、みんな知らぬふりで通しました。何か文句を言ったら終わりですから。ただ、長男がすべて相続するといっても、ほかの兄弟に対して、何らかの配慮をする場合も結構あります。どれくらい配慮するかは、その人しだいですが」

兄は広い土地と家屋をもらったのに、弟と妹は10万円のハンコ代だけ

幸恵さんたちの場合はハンコを押すかわりに、ひとりにつき10万円ずつ渡されました。
「姉たちとは『いくら何でも100万円はくれるんじゃない?』と話していたのですが、『えっ? これだけ?』って。以前母が入院したとき、父が子供に3万円ずつくれたことがあったので、今回もほかにもらえるのかと思っていたんですけれど、何もなくてそれっきり」

 

お金をもらったのは、あとにも先にもそれだけ。両親が健在だったときでも、幸恵さんたちは実家から資金援助をしてもらったことがありませんでした。

「私たち兄弟はみんな、自分たちの力だけで家を建て、定年まで家のローンを抱え、子育てをしながらパートや内職で働いて、必死に返済してきました。でも広い土地や大きな家は、全部兄のものになり、兄の息子は土地をもらって、家の頭金も出してもらい、若いうちから悠々自適の生活をしています。そういうのを見ると、どうしても複雑な気持ちになりますね」

 

10年以上たった今でも、お兄さん以外の4兄弟で集まると、そのことが必ず話題に。
「これってやっぱりおかしいよね。兄だけが子供の代まで安泰だなんて……。私たちにも少しくらい、何か分け前があってもいいはずよね」

その経験から、幸恵さんやお姉さんは、自分の娘が結婚するときに数百万円の贈与をしました。
「夫の退職金から息子に1000万円贈与したとき、息子は『僕だけもらうわけにはいかない。妹にも分けて』と言ってくれて。もちろん娘の分もあるよと言いました。私の姉も同じように娘と息子に贈与しました。自分たちが不公平な相続をしたからです。あの経験をしていなかったら、きっと子供に生前贈与なんてしていないね、と姉と話しています。兄の前でその話をしたら、何も言わず、そそくさと帰ってしまいましたよ」

「主婦弁」澤田先生からのアドバイス

今の時代に家督相続の考えを押しつけられるとは、理不尽ですね。つきあいを続けるためにがまんするなんて、やりきれませんね。お父様の生前に話し合えるとよかったのですが、お父様もそういう考えでしたら無理ですしね。

ハンコを押してしまったら、もうどうしようもないので、何か交渉するとしたらハンコを押すときだけなのです。印鑑は「最後の砦」。押さないことが唯一の対抗手段。もらえるまでハンコは押さないことです。相続分はあきらめても、100万円くらいは請求したいと思うのなら、そう伝えていいと思いますよ。

 

■澤田先生の著書『どうする? 親の相続』には、多くの体験談や相続に関するQ&Aを掲載。相続に関するベストな方法が見つかるはずです!

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澤田先生の法律事務所 弁護士法人みお綜合法律事務所 http://www.miolaw.jp/

sawada澤田有紀 
弁護士。弁護士法人みお綜合法律事務所代表。奈良県生まれ。1985年大阪大学文学部英文科卒業後、商社勤務、エレクトーン講師を経て専業主婦に。阪神淡路大震災をきっかけに、「何か人の役に立つことがしたい」と一念発起。弁護士を目指す。1回で司法試験に合格し、2000年に弁護士の道へ。専業主婦から弁護士になった「主婦弁」として各メディで活躍中。主な著書に『人生を変える!3分割勉強法』(祥伝社)、『カード&住宅ローン危機』、『相続でもめないための遺言書』『どうする?親の相続』(ともに主婦の友社)など。

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