私の「親家片」体験

不動産会社の機転のきいた仲介で実家を売却 第3話(最終話) ~親自身が売却したことで税金面で有利に~

娘との同居の誘いを断り、母親が老人ホームでの生活を選んだワケ 田中陽子さん 埼玉県・55歳

 

田中さんには妹がいる。姉妹はともに家庭を持ちそれぞれ独立しているが、住まいは実家、すなわち田中さんの母親の元の家からそう離れていない。田中さんの夫も母親といい関係をつくっていたというから、田中さんの母親は亡夫と過ごした家に居続けることもできたし、田中さん夫婦との同居もありえた。

 

それだけに、近所に住むひとり暮らしの母親から、自宅を処分して有料老人ホームに移る、と打ち明けられたときは、大きなショックを受けたという。

 

「3年前のことです。母親とふたりきりだったのですが、今でも、あのときのシーンは鮮明に覚えています。一生忘れないかもしれません」

田中さんの母親が、老人ホームを終の棲家とすることにしたのにはワケがある。

 

田中さんの父親は、従業員5人の小さな会社を経営していた。小規模とはいえ、業績はオイルショックやバブル崩壊といった経済の荒波時も比較的順調だった。

「子育ても終わり、父親が仕事の第一線から退いてからは、夫婦ふたりの時間が長くなり、よくゴルフに行っていました。海外旅行にもちょくちょく出かけていましたね」

 

田中さんの両親の幸せな生活に暗雲が漂い始めたのは、母親が70歳になろうかという時期。75歳の父親の体に突然、異変が生じたのである。原因不明の病に侵された父親の闘病生活は、7年にも及んだ。

「母は7年にわたった父の看病や介護の経験から、自分の看護や介護で、娘たちに同じ苦労をさせたくないと考えたのだと思います」

 

母親が入居した有料老人ホームは、介護職員に加えて看護職員も24時間常駐。個室を含め各種施設が充実。ホームの中でも高級な部類だろう。入居一時金はおよそ800万円。月々の費用は25万円強である。

 

「母親を老人ホームに入居させた」という親戚からのブーイングに悩まされながら実家を片づける

 

ホームでの生活を選択した田中さんの母親だが、田中さん自身は、逆風にさらされる。親戚一同から、大ブーイングを浴びせられたのだ。

「なぜ、母親の面倒を見ないのだ。同居するなり、ヘルパーさんに来てもらう方法もあるだろう!」

田中さんはそのたびに弁明し、説明した。

「母親が入りたい、と自分で決めたのです。私も同居をすすめましたが、母親は首を横に振るばかり。母の意思を尊重したのです」と。

 

田中さんの母親は、入居する老人ホームを決めてから家財道具の片づけを始めた。もちろん、田中さんと妹も手伝った。

親戚からのブーイングの渦中でつらい作業だったが、懐かしい品が出てくるたびに母親や妹と思い出を語り合う楽しさもあった。

 

母親は、老人ホームのクローゼットに入る衣類やバッグ、それに必要な身の回り品だけを持っていくことにして、残った家財はブーイングの声をあげた親戚にも声をかけ、欲しいものはすべて分け与えた。

それでも残った家電品やタンス、ソファ、サイドボードなど、粗大ゴミの類の処理は、お金を払って回収業者に依頼した。

位牌と仏壇は、田中さんに託したという。

 

母親の家の売却手続きをしたのは田中さんだが、不動産の名義は母親だ。この場合は税金面で特典がある。

自分で住んでいる家屋とその敷地を売却した場合は、大ざっぱにいえば売却利益が3000万円までは基本的に非課税となる税金の優遇制度があるのだ。

「母の家は、宅地の取得費用も高かったので、結局、課税されませんでした。ですから母はいまリッチですよ」

 

(完)