私の「親家片」体験

80歳でマンションへの引っ越しを決めた母  第2話(最終話) ~母が中心となりリフォーム・引っ越しを完遂~

「モノはいらない」が口グセ。食器も洋服も雑貨も、好きなものをていねいに使っている母   鈴木雅恵さん 東京都・56歳  

 

一戸建てからマンションへの引っ越しを決めた鈴木さんの母。中古マンションを購入し、リフォームのプランを練り上げ、千代子さんの引っ越し準備が始まった。

 

「リフォームも引っ越しも母が中心になってすべてを行いました。マンションの壁のクロス、天井のクロスを選び、和室の畳は琉球畳にかえ、水回りは徹底的にクリーニングしてもらいました。マンションを決めてから引っ越しまで3カ月あったんですけれど、“引っ越し業者に頼むので、あなたたちは手伝わなくていい”と言ってくれたんです」

 

とはいえ、鈴木さん、引っ越しの荷造りの手伝いには行った。千代子さんの家はいつもすっきり片づいていたが、棚や引き出しの中も同様にきれいに整理されていたことに、このとき改めて驚いたという。

洋食器も和食器も、千代子さんが好きで集めたものだけ。結婚式やお中元、新婚旅行のおみやげにいただいたようなものはひとつも残っていなかった。

 

「モノはいらないというのが母の口グセで、いただきものでも不用だと思うと、お友だちやご近所のかたに惜しげなくさし上げていたんです。もらってくれる人がいないものは、バザーに出していました。洋服も気に入ったものをていねいに着ているので、数はないんです。バッグなど小物も同じでした」

 

それでも、千代子さんは引っ越し先が今の家より狭いからと、荷物を3分の2くらいにまで減らしたという。処分品は地域のゴミ収集日と粗大ゴミに出した。

 

新生活に持参した荷物は、2トントラック1台分だった

 

新居に持ち込んだ大物の家具は、整理ダンスひとつ、ダイニングセット、仏壇、食器棚ひとつ、長年使っているベッド。2トントラックですべての荷物を運ぶことができた。「一戸建てからマンションに変わっても、母の生活は変わらないですね。庭がなくなったので、ベランダで鉢花を育てるのかと思いきや、今はもっぱら切り花を楽しんでいます。土を捨てるのが大変だから、園芸はやめたんですって。引っ越しのお祝いに集まったとき、母は私と兄に“このマンションは途中の選択。あと10年、できればここに住みたい。その後は高齢者専用の住宅に移るつもり”とも言いました。母は真剣に、見事に自分の人生と向き合い、自分が今、何をしなければならないのかを考えているんです」

 

千代子さんは神戸生まれ。10代で両親を亡くしている。

「戦争も経験しています。だからでしょうか、モノをたくさん欲しがったりしない。何があってもあまり動じない。それでいて、花や本や編み物が好きで、かわいいところももちあわせているんです」

 

家は処分した。買主は、千代子さんの思い出の詰まった家を壊すことなく、そのまま使ってくれている。

「一度、家を見に行かないかと誘ったのですが“いや”と断られました。でも、まだ家がそのままあるということは、母にとっても救いになっているかもしれません。早くも10年後に住むところを探すために、少しずつ見学に行ったりもしているみたい。その感想をメールで送ってくれるんです。母は60代でパソコン教室に通ったので、パソコンも使いこなしていて、私とは毎日メールでやりとりもしているの。母は、私の見本ですね。私も母のように年を重ねて、かわいいおばあさんになれたらいいなと思っています」

 

(完)