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主婦弁 澤田有紀の「親・家・片」法律コーナー 第11回 ~認知症の親のお金をめぐり裁判に 後編~

認知症の母親の世話をしていた長男のAさん。母親を高齢者施設へ入居させるために母親の住む家を売却し、代金の一部を施設の入居一時金にあて、残りを管理していました。ところが家の売買や高齢者施設の選定に疑問を持った妹のB子さんが、家庭裁判所に成年後見の申し立てをしたのです。その後、後見人である弁護士に母親の財産の引き渡しを求められ、ついに裁判にまで発展してしまいました……。

 

母親の世話をしなかった妹との間に生まれた
心の溝が問題を大きく

親の介護の大変さがは経験してみないとわかりません。母親の世話をしてきたことに対する貢献の大きさについて、Aさんが思うほど、世話をしていないB子さんは評価していない、ということにまず大きな溝があるでしょう。

 

Aさんにしてみれば、忙しい仕事の合間を縫って、毎日母親の世話をしに高齢者施設へ通い続け、その間は趣味のための外出もできず、生活を犠牲にしてきたとの思いがありますので、家を売ったお金が余っているのであれば、息子の学費を援助してもらって当然だと思うでしょうし、今までの立替金やこれまでの世話に対するお礼という意味で、ある程度まとまったお金をもらって当然だという感覚になったのでしょう。

実際に母親はAさんに感謝の言葉を述べ、そうしてくれと言っていたのです。

判断能力が衰えた親のお金を自由にはできない

しかし法律では、判断能力が衰えてしまった親のお金を自由にする権利は誰にもありませんし、介護に対する貢献も金銭的にはほとんど評価されません。法的には、B子さんの言い分が正しいのです。

母親のために使ったという証拠のないお金は、全部後見人に引き渡さなければならず、後見人は、母親が亡くなるまでそのお金を管理し、母親の生活費のみに支出することになります。

そうして母親が亡くなったあと、残ったお金はAさんとB子さんで半分ずつという、公平なのかどうなのかわからない結論になるのです。

このような事例に接すると、「お金を持っていることの意味」について考えてしまいます。認知症で財産管理に関する判断能力がないと診断されると、自分のお金でありながら、自分のお金ではなくなってしまうのです。
親の家にはモノがあふれかえっています。いつか使えるかもとか、もったいなくて使えなくてとってあったモノは、結局一度も使われることもなく、ゴミとして処分
されます。ゴミは捨てれば終わりますが、大切なときのためにとっておいたはずのお金が、結局は子どもたちの紛争のもとになってしまうというのは、なんとも皮肉なことです。

 

澤田先生の法律事務所 弁護士法人みお綜合法律事務所 http://www.miolaw.jp/

sawada澤田有紀 
弁護士。弁護士法人みお綜合法律事務所代表。奈良県生まれ。1985年大阪大学文学部英文科卒業後、商社勤務後エレクトーン講師に。阪神淡路大震災をきっかけに、「何か人の役に立つことがしたい」と一念発起。弁護士を目指す。1回で司法試験に合格し、2000年に弁護士の道へ。専業主婦から弁護士になった「主婦弁」として各メディで活躍中。主な著書に『人生を変える!3分割勉強法』(祥伝社)、『カード&住宅ローン危機』、『相続でもめないための遺言書』『どうする?親の相続』(ともに主婦の友社)など。

 

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