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遺品整理のプロ 吉田太一の「親家片のススメ」 第8回 ~途切れかかっていた家族の糸をつなぐ遺品~

言葉にできなかった思いが、遺品には詰まっています

誰も知らなかった故人の秘密は、遺品整理をしてくれる身内への最後のメッセージです。遺品整理の場は、故人との最後のお別れの場でもあるのです。

 

関西で中年の女性が亡くなり、弟さんから遺品整理をご依頼いただいたことがあります。

女性は離婚してひとり暮らし。荒れた生活をしていたようで、弟さんはそんな姉がうとましいと、私どもが遺品整理のお手伝いをしている間、ずっと愚痴ばかりでした。

 

ところが、整理するうちに弟さんを受取人とする生命保険証書がみつかりました。

「こんなに自分のことを思ってくれていたのか……」

弟さんは、ひとこといって泣き崩れました。おしゃれもせず弟のことを気にかけていた様子は遺品からもわかりました。

 

また、かなり以前のことですが、音楽家を目指して実家を飛び出し、上京してきた若者が都内のアパートで亡くなり、遺品整理のお手伝いを依頼されたことがありました。

 

ご両親の立ち会いの元に進め、最後に亡くなったご子息が愛用していたと思われるギターをお渡ししようとしたところ、息子のミュージシャンの夢に反対していた父親は「捨ててください」と断ってきました。

 

そこで、私は一冊のノートをそっと渡しました。

「おやじ、ごめんな」「帰りたいけど……」

それは亡くなる前に両親への思いを綴ったノートでした。それを読んだ父親は、「やはりギターは形見に持ち帰ります」とおっしゃいました。

 

遺品が家族のきずなをつなぎ直すきっかけになることも多いのです。

 

このように、私どもの仕事は、単なる家財道具の片づけにとどまらず、現場に遺された遺品によって、途切れかかっていた家族の糸をつなぎとめるという重要な役割をも背負っていると考えています。

 

何年も遺品の整理をしないということは、いつまでも故人の人生がそこに残っていることになり、故人がスッキリとこの世をまっとうできていないことにもなります。

 

その反面、すぐに片づけてしまうと、故人の人生をさっさと世の中から消してしまうようでつらく感じてしまう方もいらっしゃいます。あまり片づけを急ぎすぎず、少しは故人の遺した遺品を見ながら、故人を偲んであげることも必要ではないかと思います。

 

いつかは自分も整理される立場になることを理解する

 

人は亡くなるとさまざまなものを遺します。亡骸や遺品だけでなく、遺族、遺言、財産、借金、思い出、後悔、恨み、記録、記憶などを遺し、少なからずやり残しがあり、心残りを抱き亡くなってしまうものだと思います。

 

片づける必要がなく残すべきものは、遺族、遺言、財産、思い出、記録、でしょうか。

片づけなくてはいけないものは、亡骸と遺品、借金ですね。片づけたいけれど不可能なものは、後悔と恨みと記憶でしょう。

 

加齢や病気などで余命宣告を受けているという例外はあるかもしれませんが、ほとんどの人は、自分の最期の日を事前に知ることはできません。現実にはあり得ないことでしょうが、命を落としたあとに、「せめて数日だけでもいいので、前もって死ぬ日がわかっていたらなあ、あれだけはしておきたかった」なんて気持ちになっているかもしれません。

 

ですので、故人の気持ちを考えながら遺品の整理をしてあげるのは供養にもなるのではないでしょうか。

しかし、故人の秘密を知るのはプラスのことばかりではありません。

知ってよかったことと、知らなければよかったことのどちらも知ることになる可能性があり、知ることによって精神的にダメージを受けてしまう遺族がいることも事実です。

死んだら無罪放免とはいいますが、遺された遺族が悲嘆に暮れないような配慮のある生き方も必要だということがわかります。

 

そして、今、親の家を片づける立場にある人も、将来誰かに片づけてもらうことになるのです。すべての人は遺品整理をしてあげる立場と、遺品整理をしてもらう立場の両方になるということを理解しておきたいものです。

 

吉田太一(よしだ たいち)
1964年生まれ。大阪府出身。日本初の遺品整理専門会社「キーパーズ有限会社」代表取締役。独居老人の増加に伴い身内の遺品の整理で困っている人が多いことに着目し、「天国へのお引越しR」をキャッチフレーズとした同社を設立。年間1500件に及ぶ遺品整理サービスを提供するほか、年間50回以上の講演活動、メディア取材で全国を飛び回る日々。まさに「親家片」のエキスパート。著書は『遺品整理屋は見た!』『孤立死 あなたは大丈夫ですか?』(以上扶桑社)、『私の遺品お願いします。』(幻冬舎)ほか多数。さだまさし原作の映画『アントキノイノチ』のモデルとしても知られる。
キーパーズホームページ http://www.keepers.jp/