専門家に聞く

主婦弁 澤田有紀の「親・家・片」法律コーナー 第5回 相続の手続きが進まないケース

とくにもめていなくても、手続きがすすまない場合もあります

 

相続の手続きが進まず困り果てて事務所に来られるケースとして、大きく分けて二つのパターンがあります。相続で困っているというと、もめているケースを想像されると思いますが、実は、もめていないのに、手続きが進まず困り果てている方も多いのです。

 

前回お話ししたように、金融機関の手続きや不動産のなどの相続手続きにあたっては、相続人全員の実印を押した書類と印鑑証明書が必要になります。相続人の中で誰かが主導して進めないといけないのですが、相続人もみんな高齢になっていて誰も進んで手続きをしようとしないケースや、日ごろから疎遠のせいか、連絡しても返事をくれない人がいるというケースがあります。

 

誰も動かずに放置されたまま……

まったく付き合いのなかった叔父さんがなくなって、遠くの町の役場からの突然の連絡で後始末を頼まれたAさん。Aさんのお父さんは8人きょうだいの長男で、亡くなった叔父さんは若いときに家を飛び出して以来、きょうだいと付き合いはありませんでした。Aさんのお父さんの世代の人はすべて亡くなっており、娘のAさんに連絡が来たのです。

 

町役場によると、叔父さんの銀行預金が2000万円ほどあるとのこと。現金も社会福祉協議会が数十万円預かっているので引き継ぎたいとのことでした。

会ったこともない叔父さんのお金を相続していいものか、相続人がどれだけいるのかなど、わからないことだらけで、しばらくどうしていいのか分からず、放置していました。町役場から何度も催促されて途方に暮れたAさんが私の事務所に相談に来られたのです。

 

このケースでは、①相続人の調査②それぞれの相続の意向の聴取③金融機関に対する払い戻し請求を、弁護士に依頼してすっきり解決できました。相続人調査の結果、関係者は40人以上もいることがわかり、それぞれに意向を聴取したところ、相続放棄する人も何人かいて、最終的に相続人を確定するのに数か月を要しました。普段まったく付き合いのない人もいましたが、弁護士を介して連絡をすることでストレスなく手続きが進行しました。

 

連絡をしても返事をくれない、どうしても進まない場合の解決法

親の相続で、きょうだいが2人しかいなくても、一方が非協力的であれば手続きがすすみません。具体的にもめているわけでもないのに、連絡をしてもまったく協力してくれないケースもあります。このような場合だと、弁護士が入ったからといってスムーズに進むとは限りません。

 

協力してくれない理由はさまざまですが、どうしても前に進めない場合、最終的には家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。裁判所が相手方に意向を聴取してくれます。調停で解決できなければ裁判所が審判をして決めてくれます。

預貯金については、法定相続分の金額については単独で銀行に払い戻し請求をすることができる場合があります。

 

(太字の専門用語については下記の解説も参考にしてください)

 

 

社会福祉協議会

社会福祉法に基づきすべての都道府県・市町村に設置され、さまざまな活動を行っている非営利の民間組織。福祉サービスの利用契約手続きの援助や、日常的な金銭管理等を行う「日常生活自立支援事業」などを行っている。

 

相続放棄

相続人が被相続人(亡くなった方)の権利や義務を一切受け継がないという選択をした場合に家庭裁判所に申し立てる手続き。相続の発生を知ってから3か月以内に申し立てる必要がある。

 

遺産分割調停

被相続人の遺産の分割について相続人の間で話し合いがつかない場合には、家庭裁判所の遺産分割の調停の手続きを利用できる。相続人のうちの1人もしくは何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てる。 調停手続では調停委員会が、当事者双方から事情を聴いて必要に応じて資料等の提出を促したり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指して話し合いが進められる。

 

審判

遺産分割調停で話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が遺産に属する物または権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮し、審判をして分割方法を決める。

 

 

澤田先生の法律事務所 弁護士法人みお綜合法律事務所 http://www.miolaw.jp/

sawada澤田有紀 
弁護士。弁護士法人みお綜合法律事務所所属。奈良県生まれ。昭和60年大阪大学文学部英文科卒業後、商社勤務後エレクトーン講師に。阪神淡路大震災をきっかけに、「何か人の役に立つことがしたい」と一念発起。弁護士を目指す。1回で司法試験に合格し、平成12年に弁護士の道へ。専業主婦から弁護士になった「主婦弁」として各メディで活躍中。主な著書に『人生を変える!3分割勉強法』(祥伝社)、『カード&住宅ローン危機』、『相続でもめないための遺言書』(ともに主婦の友社)。

 

そのほかの澤田先生の記事はこちらをクリック